生徒さんの声No.1

会実施「きもの・作法感動物語」、受賞作品より

『成人の日に』 秋田和装総合学院 松永 香澄

記録的大雪となった1月。今年もまた、和装着装士として大きな喜びを感じる

ひとときを迎えることが出来た。


それは1月10日、成人の日の朝である。


衣桁に掛けられた晴れ着を前に、母と娘は共に頬をほんのりと桜色に染めていた。

娘は瑞々しい生命力と希望にあふれる若い瞳を輝かせ、母は安堵と喜びを湛えた

慈愛の眼ざしでそれを見守っている。


毎年、年の初めのこの光景を見るのが私は大好きだ。


着付けをしていると、人様の様々な人生の節目に遭遇することが多い。

そんな中でも成人式という人生の春を飾る振袖の着付けは、伝統の形・色・模様に

身を包むことで、日本の民族衣裳の素晴らしさを知ってほしいとの思いを込め

腕によりをかけて精一杯張り切る機会だ。


より美しく華やかにと作業を進めると、完成に近づくにつれ、鏡の中の若い瞳が更に

輝きを増してゆく。


この瞬間に、私は着装士としての無上の喜びを感じる。


また、傍らで目を細める家族にとって、20年間慈しみ育てた子が無事にこの日を迎えられたことは、

これまでの苦労も消える程の幸せであろうと思いを巡らせる。

そして、かつて自分にもこんな日があったことを思い、今更ながら両親に感謝する瞬間でもある。


これまで沢山の家族と様々な成人の日に立ち会ってきた。

両親の離婚で父親と一緒だった娘。晴れ着に赤ちゃんを抱いていた娘。

バッグに父の遺影を忍ばせていた娘。

それぞれの事情の中で生きている新成人たちは、着付け終わると、皆同じ晴れやかな笑顔で

雪の中へ飛び出して行く。その後姿に向かって、この先の人生にも幸多かれと祈りながら

送りだす。毎年繰り返される喜びのひとときだ。


外は真冬の猛吹雪。しかし、弾ける笑顔と晴れ姿に、まるでそこだけが春のような空気に包まれて、

母娘は会場へと出掛けた。

全日本和装コンサルタント協会

和装道・作法道の素晴らしさの一つに自然との同調があります。四季の移ろいを色目や文様に写しとり、脈々と受け継がれてきた歴史の集大成をもまとう。  着物姿の醍醐味に着装、着付け芸術があります。着装によって着物は息吹き、和の精神が宿る。 着る人の立居振舞や言動によって高めることも低めてしまうことさえ同様にあります。一期一会の出会いを大切に活かせられるように常日頃から気を配り、身につけたいものです。