協会実施 「きもの・作法 感動物語」 受賞作品より
『ラクだからいいのか』 関西和装学院浜松本校 安部久美子
着物は窮屈です。階段で裾を踏みそうになり、背をもたれかければ、
帯が背中で悲鳴をあげる。
家で洗濯機に入れてガラガラ洗うわけにはいかないから、食事にも気を使う。
跳ねを気にしてカレーうどんなど、恐ろしくて食べられない。
それに比べ洋服は楽だ。階段は一段飛ばしに上がれるし、寝転がれる。
汚れたら洗濯機でガラガラ洗えるからカレーうどんもOKだ。
けれど、けれど…
これでいいのか。一段飛びの階段上りは、元気いっぱいだが、それ程
急ぐ必要があるのか?寝転がった姿はお行儀が悪くなる。
今まで着物は、結婚披露宴に呼ばれた時くらいしか着たことがなかった。
着付けを習い始めて、締める心地良さを感じた。
人に締めてもらった時は、ただただ苦しいだけだが、
自分で締めれば力を加減する。着崩れず、苦しくなく、ぎゅっと締めた紐は、
心も引き締める。「言葉づかいまで違うね」と友に言われたこともある。
今の目標は普段着に着物を着ることだ。着付けにはまだまだ自信がないせいか、
近所のスーパーに着物姿で買い物に行く。何となく照れくさい様な、恥ずかしい様で
まだ成しとげていない。まだまだ練習しなくては・・・。
この夏、また若い娘達は、腕を出し、肩や背、いや、おへそやお尻の割れ目さえ
露出させる季節が来る。
ああ恥を知る日本の文化が消える。そんな中、涼しい顔で白い紬を小粋に着こなし、
日傘を差してさっそうと歩く。そんな自分を夢見て、着付けのお稽古をしよう。
ああその前に、着ているジャージを脱ぎすて、もぐりこんでいるコタツから這い出さなくては…。
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